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そう言って春斗が指差す先にあったのは、黒塗りの車。傍らにはスーツ姿の大人の男性が立っている。
「もしかしてお父さん?」
尋ねる涼子に春斗は首を振る。
「お父さまとお母さまは海外にいる。あれは運転手だ」
聞いていた和真が目を丸くした。
「おいおい、高級外車じゃねぇか。ガキんちょのくせに運転手付きで幼稚園に通ってんのか、おまえ」
車に疎い涼子はキョトンとしている。そんな彼女の肩を和真が揺さぶった。
「涼子、相手が子供とはいえ、知らない家に一人で行くな」
和真は春斗に向き直る。
「俺も一緒に行くぞ。いいな?」
春斗はジーっと相手を見上げていたが、やがてうなずいた。
そんなわけで、涼子と和真は、幼稚園児・春斗の運転手が操る高級外車に乗っていた。
「――あぁ、そういえば水族館で迷子を助けたって言ってたな」
和真は、涼子と春斗が知り合ったいきさつを聞いているところだ。
幼稚園の遠足で初めて水族館を訪れた春斗は、館内を行進するペンギンに釘付けになり、一人でついて行ってしまったのだという。
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