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結局冬依は、その田中と名乗る警察官にマンションまで送らせてしまった。
道中にいくら、
「兄たちはみんな優しいです」
「兄の婚約者のお姉さんがずっと家にいて、ご飯の用意もしてくれます」
「家も学校も楽しいです」
言っても、
「ああそうか。冬依くんは優しいんだねぇ」
いまいち伝わった気がしない。
警察官を嫌う冬依の感情が、余計に冬依の口調を不自然にしたのかもしれない。
田中と名乗った警察官は、次第に言葉少なくなる冬依に、
「お兄さんの婚約者と同居ねぇ。それはいろいろ気を使うでしょう」
「中3なのに塾も行かせてもらってないの。進路の相談、学校の先生とちゃんとしてる?」
腹の立つ言葉を、これでもかというほど重ねてくる。
これが嫌がらせではなく何なのだ、と冬依の握った拳がぷるぷる震える。
現実、塾なんて必要ないから行かないだけだし、受験する予定の高校も、冬依の今の成績があれば十分に合格圏内。
だけど、いくらそう説明しても、
「冬依くんは頭がいいんだね。じゃあ逆に塾に行けていたら、もっと良い学校を狙えたかもしれないね」
田中には伝わらない。
どんな耳をしていたら、こんなに自分に都合よく解釈できるのだ?
冬依は感情をこらえながら、足を動かした。
警察官を殴らないためには、一刻も早く家に帰ることが必要だった。
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