116人が本棚に入れています
本棚に追加
それから、来生家の周りで巡回パトロールする警官の姿がちょくちょく見られるようになった。
あの夜、冬依をマンションまで送った田中という名の警察官。
夜に仕事で出かける夏樹は、その田中に職務質問までされたという。
「まあいいけどね。それにしてもなんだ? 最近はこの辺に空き巣でもいるのか?」
「……」
さすがに原因は冬依だなんて、今更いえない。
要領のいい夏樹は、そつのない受け答えで、不躾な職質をやり過ごしたらしいが。
それでなくても来生家は、これまでいくつもの物騒事件に関わっている。
特に年長組は、別に犯罪を犯すわけではないが、いつもスレスレのことをやらかす。
無駄に粋がって、国家権力に逆らっても良いことはないのだ。
だから冬依も、隙は見せられないと思った。
兄たちが警察官からの無礼な振る舞いに鉾を押さえているのに、肝心の冬依自身がヘマをやらかすわけにはいかないではないか。
辛抱強く、ただ田中の興味が来生家から他に移るのをじっと待つ。
いくら平和な日本でも、警察官も暇ではない。
たかが公園のベンチに座っていただけの冬依に、それほど時間を費やせるとは思えなかった。
最初のコメントを投稿しよう!