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そんなある日の昼休み、冬依は名も知らぬ下級生から伝言を受け取る。
「来生センパイ大変です。いま警察の人が来て、お兄さんがケンカに巻き込まれて、それで逮捕されちゃったって」
必死な様子で告げる下級生とその内容に、冬依は一瞬ヒヤリとしたが、
「それでその警察の人、冬依センパイを警察署まで連れていってあげるって、裏門のところで待ってるんです。コトがコトだから、学校にはまだ内緒にって話で」
「……そう」
相手が警察官だと聞いて、冬依は一度深く息を吸った。
年長組の兄たちが呼び出すのなら、さもありなんだが、警察官が個人的に中学生の冬依を迎えにくるなんてありえない話だ。
ここのところ秋哉の監視下にいた冬依に、ついに田中が業を煮やしたのか。
そこで冬依は、
「ありがと。わかったよ」
笑顔で下級生に礼を言い教室に帰す。
そして、誰もいなくなった空間にむかって、
「カエデ」
短く名を呼んだ。
ーーやはり、
「……おう」
廊下の陰から現れる、山上楓の姿。
もともとカエデは身体がデカいが、こうやってのっそりと姿を現す仕草は、まるで獰猛なドーベルマンだ。
そんなドーベルマン、この件についてしつこく聞いてくるので、当たり障りなくあしらったところ、すっかりヘソを曲げてしまった。
ここ最近は冬依と目を合わせようともしなかったが、でもやっぱり、冬依が呼べばこうやって現れる。
いつも冬依の側にいるのだ。
だから冬依は、これまでの気まずい雰囲気など、まるで気にしていない風に、
「カエデ、ちょっと秋兄を呼んできてよ」
変わらない口調で命じた。
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