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秋哉のダッシュは早い。
さすがサッカー部、というより、まるで訓練された獲物を狙う猟犬のように、迷いなく走っていく。
一方カエデは、喫煙がもたらす青少年の肺への影響について猛省しながら、
「来生さんっ! どこ行くんっすか」
秋哉の背中に怒鳴るように声をかける。
すると秋哉は、
「どこって――、どこだ?」
足を止めた。
カエデはたたらを踏んでつんのめる。
秋哉はカエデを振り返ると、
「二中?」
困った顔で聞いてくるので、
「冬依さんは、もう二中にはいねーよ。さっきオマワリに呼び出されて、どっか行っちまった」
なんだって行き先も知らず走り出せるんだ、この人は。
大抵のことならニコニコした笑顔という名の無表情の下で、淡々と冷酷なことを考える冬依とはまるで違う。
考えるより先に身体が動くタイプ。
カエデが呆れて秋哉を見つめれば、秋哉は秋哉で、
「オマワリに呼び出されたって。トーイのやつ、ついに脅迫、傷害、もしか殺人未遂? 見つかるなんてらしくねぇな、どんなドジ踏んだんだ?」
「……」
黙って言わせておけばこのアニキ、
『冬依さんにどんな認識を持ってんだよ』
ツッコミどころ満載だ。
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