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その頃、冬依は、 「ああ、困ったなぁ」 さほど困った顔もせずに呟いていた。 「今回ボクがヒロイン役だから仕方ないけど、この格好はやっぱり恥ずかしいよ」 そういう冬依の細い首には犬用の首輪がはめられている。 もちろん首輪の先には鎖。 鎖が繋がれているのは、頑丈で重そうなベッドの足だ。 「あいつがこんなにヘンタイだったなんて。油断しちゃった」 中学校の裏門で待っていた田中は、下級生が言った通り警察の制服姿だった。 「冬依くん大変だ。お兄さんがケンカで連れていかれた」 聞かされた伝言とは少し違うので、 「連れていかれた?」 聞き返すと、 「ああ、どうやらケガをして病院に運ばれたみたいだ」 「ケガ!?」 さもありなんなことに冬依が驚いて目を見張れば、 「冬依くん、こっちだ」 田中は道の端に停めてあった車の後部座席のドアを開ける。 『……』 パトカーでもなく、田中の私有物だろう軽自動車の存在に少しためらう冬依に、 「冬依くん、早く!」 いつの間にか背後に回り込んでいた田中が、冬依の背中を強く押してくる。 「――クッ」 身をそらしてかわそうとしたが、  ――ガチャリ―― 「!」 背中に意識をおいたせいで、油断した。 冬依の左手首にかけられたのは、銀色の手錠。 『うっわスゴい。これ本物?』 一瞬見惚れていたのが悪かった。 手錠のもう片方が、車のドアの取っ手にカチャリとかけられる。 腰を曲げた不安定な体勢になったせいで、そのまま抵抗することもかなわず車の中に押し込まれた。
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