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「兄さん達?」
さっきとニュアンスが違う言い回しに、冬依はいぶかしげに目を細める。
すると田中は、
「大丈夫、冬依くんのすぐ上のお兄さんは、まだ高校生だから、軽い怪我ですむ予定だ。でも派手な方はどうかな……」
含みがあるイヤな笑い方をするので、冬依は、
「秋兄と夏兄に、何か仕掛けたんだね」
田中は、
「仕掛けたなんてヤダなぁ、人聞きの悪い。ボクは正義の警察官だよ。でも冬依くんのお兄さん達はアレだね。少し話を聞いただけで恨んでいる人がいっぱいいた。ちょっと呆れたよ」
「……」
冬依の兄たちは別に清廉潔白ではないので、例え恨まれていても不思議ではない。
だが残っている相手は小物ばかりで、緊急に叩き潰す必要がある敵はいなかったはずだ。
誰かの根回しでもなければ、まとまって襲ってくるなんて思いつきもしないチンピラ連中。
ましてや、復讐を実行する度胸のあるやつらではなかった。
でもそこに、警察官という立場の田中の根回しが加えられた。
田中なら、街のチンピラの弱みを握ることぐらい簡単なことだし、その中に、秋哉や夏樹に恨みを持つ敵を見つけることも容易だろう。
田中は、そいつらを使って、仕掛けてきた。
自分の第三者的立場を崩すことなく、来生家の周りの消えかけた火種にガソリンを撒く。
賢いやり方だが、
「……気に入らないね」
冬依は口の中で呟く。
日頃からの兄たちの生き方を知っているだけに、田中の取った手法はただただ卑怯に思えて腹が立つ。
――カチャリ――
冬依は首から伸びた鎖を鳴らしながら立ち上がる。
しかし大人の田中の身長は冬依よりずいぶん高い。
顎を上げて、目をむける。
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