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気持ち悪い。 最悪だ、こいつ。 冬依の胸の内は嫌悪感でいっぱいだが、労せずして田中の今回の企みの全貌が明らかになった。 聞く前に自分から教えてくれた。 最悪、色仕掛けまで想定内にいれていた冬依だが、そんな不快な手は使わなくてすみそうだ。 だから、 「そこまでボクのことを考えてくれてありがとう、田中さん」 冬依はニッコリと、天使の微笑みを浮かべてみせる。 田中はふいの冬依の笑顔に素直に見惚れて……。 冬依はそこにすかさず、 「田中さん、ボクちょっと喉が痛い……」 ケホッと咳をしてみせる。 「この首輪、外して欲しいんだ」 けれど田中は眉根を寄せて、 「ごめん、冬依くん。それは無理だ」 冬依の頼みを断った。 「もう少し、本当にもう少しの辛抱だから――」 冬依は切なげに目を細めながら田中を見つめ、 「じゃあ田中さん。せめて、お水を飲ませて」 「水ならここに」 田中が焦ったようにコンビニの袋からペットボトルの水を出してくるのに、 「オレンジのじゃないとヤダ」 冬依は可愛らしく我がままを言ってみせる。 「え、オレンジジュース?」 理解しない田中に、 「違うよ。フルーツフレーバーのミネラルウォーター。ボクそれじゃないとイヤなんだ」 首輪を見せつけるように顎をあげて、もう一度、 「ケホッ」 念を押すように咳をする。 ヒリヒリと痛むから、きっと白い喉には擦り傷ぐらい出来ているはずだ。
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