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「ね、お願い。田中さん」 冬依がうるうると涙を浮かべた瞳でお願いすれば、田中は、 「……わかったよ。買ってくる」 ようやっと、地下室から出て行ってくれた。 最初は叶えられない願いごとを口にし、断らせてから本題の頼みごとを切り出す。 人は好意を持った相手の願いを一度断ると、次の頼みは断りにくくなる。 その心理を使って田中をこの部屋から追い出し、とりあえずの時間を稼ぐことには成功した。 だが、しかし、 「……秋兄、遅いなあ」 正常にGPSが起動していれば、このビルにたどり着くぐらい容易なはずだ。 だけどさっきの田中の話によれば、秋哉は今ごろ恨みを買っている誰かに呼び出されている可能性がある。 秋哉を探しに行かせたカエデが、無事に秋哉を見つけられていれば良いのだが……。 とにかく、いま冬依が出来ることは、時間を稼ぐこと。 首輪で鎖に繋がれ、後ろ手を手錠で拘束されている以上、カエデを信じて秋哉を待つしかないだろう。 警察官という立場を持つ田中の、絶対的な異常性を世間に公表しようなら、自分に屈辱を与えるしか方法が見つけられなかった。 しかしあのふたり、本当に信用できるのか? 単細胞でケンカっぱやい秋哉と、基本、他人を信じない一匹狼気質のカエデ。 このふたりの息が、とても合うとは思えない。 ふたりが一緒にいるところを、ちょっと想像してみて、 「モメてなきゃ、いいけどなぁ」 冬依は頭が痛くなってくる。
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