プロローグ

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『……』 やっぱりこの光景を見下ろしている山上楓は、言葉を無くして階下を見つめている。 なぜなら、女子たちが名前を呼んだように、来生冬依はれっきとした男なのだ。 中学3年生、男子。 男が自分の兄貴の腹に抱きついていって、何が面白い。 なんで喜ぶんだ? それどころか、 『見てんじゃねーよ』 とカエデは思う。 確かに冬依は、華奢な体躯に真っ白な肌をしている。 その辺の女子ならまったく敵わない、こぼれ落ちそうな瞳に長く縁取ったまつげ。 バラ色の頬にピンクの唇。 どこまでも綺麗な顔だちは、男だと知っているカエデですらも、とびきりの美少女にしか見えない。 実はカエデも、まともに目が合えば胸が妖しくざわめく。 しかし冬依は、その可憐な容姿の裏に、恐るべき本性を隠しているのだ。 この学校で、ケンカ最強。 この事実はカエデしか知らない。 以前、冬依を甘くみて、こてんぱんにやられた過去がカエデにはある。 その日から、カエデは影に日向に冬依の盾になった。 だって許されないだろう。 学校の『姫』と称えられる美少女が、実は知能犯的、凶悪極まりない男だったなんて。 カエデは今ではすっかり、『姫」と呼ばれる冬依の従者で、そしてカエデは、その境遇に不満を持っていない。
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