第1章

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 約束の日が明日に迫っているとあって、もはや巣窟と化している机の引き出しの最下層に眠っていた絵日記を取りだした。  夏場の熱気をはらんだ埃っぽい空気が舞い上がり、代わりに大量のプリントがばっさばっさと畳に散乱する。毎年夏休み恒例、母上司令官の命による大清掃の真っただ中であったのが幸いした。これ以上散らかったところで痛くもかゆくもない。  表紙の中、ひまわりの絵が夏空のもとで大きく咲いている。その表面に一〇年がかりで累積したざらざらを手で払い、まんじりと見つめた。  懐かしの一冊。  漢字もろくに使わず、3ねん、くさきゆうと、というフエルトペンの文字が大小も横ラインもバラバラに並んでいる。 「きったね」  子供の頃の字というのは、一〇代も半ばを越えてから見るとおもちゃ箱の中身でも覗いているような乱雑さを恥ずかしげもなく晒してくるものなのだ。  手触りの掠れている表紙から始まって、何枚かぺらぺらめくる。  それは絵日記が白紙を迎える直前のページに褪色もせず描かれていた。  森と地面と少々の青空に囲まれた三人の幼稚園児。  俺とコナミちゃんとあと誰か忘れたけれど、日記には名前がしっかり記されており、その日の出来事も子供にしては事細かに綴られていたので記憶の引き出しを探し当てるのには然程苦労しなかった。
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