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そうだ――あれからもう一〇年も経つんだ。
自分から意図的に日記を引っ張りだしたくせに、回顧はほとんど強いられるみたいにして脳内で巻き起こった。
すべてはコナミちゃんの一言から始まった。
「三人でこっくりさんしよう」
俺は間髪入れず聞き返した。
「なんで?」
「わたしたちの名前のあたまを取ると、こっくりにそっくりでしょ?」
コナミ、クサキ――。
それからタムラ。
「おしい」
「ご、ごめん」
俺が突っ込んでタムラが困惑している内にも、コナミちゃんはきゃっきゃっと笑いながら続けた。次の日にお別れだなんて、当時の彼女はまるでそんなことを感じさせようとしない明るい人柄をしていた。
「細かいことはいいのいいの。明日から会えなくなるんだから」
「コナミちゃん、トウキョウに行くんだっけ」
「そだよ。お父さんのお仕事で」
「いばらきからトウキョウって、行くのたいへんなのかな」
坊主頭で褐色肌のタムラが時々見せる泣きっ面は、その名よりも遥かに印象的だった。あいつ、コナミちゃんのことになると絶対そうだったから。
「さあ。大人たちはそんなでもない感じだったけど」
コナミちゃんはポケットから四つに畳まれた紙を取り出すと、いつから用意していたのだろう、五〇音字が丁重な字面で並んだそれを、学校裏の森の中にあるちょっとしたスペースで広げた。
その場所は三人の秘密基地のようなものだった。夏休みにでもなれば、幼稚園の頃からずっと一緒に過ごしてきた俺たちは毎日そこでかくれんぼや探索ごっこをした。
だから正直、あの日のコナミちゃんが何を言ったとしても、俺はすべて受け入れるつもりでいた。
タムラも同じ心境だったらしい、一〇円玉に三人の指をセットする間も怯えつつ、それでもコナミちゃんの笑顔を横目に見ては黙々と手を動かしていた。それでもって、口端が震えていた。
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