0人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあ、行くよ。――クサキくんは私のことが好き」
「ジイシキカジョウだね、コナミちゃん」
「え? 何それ?」
「自分のことが好きな人をそう言うんだって。お母さんがおしえてくれた」
「ふうん。けどいまはそうじゃなくて、クサキくんが私のことを好きかどうか聞いてるの、こっくりさんに」
思えばあれほどぐだぐだなこっくりさんは見たことも聞いたこともしたこともなかった。後にも先にも、だ。
合言葉のひとつもない儀式が途中であっても、コナミちゃんはケロッと言葉を挟みいれた。
「クサキくん、私のこと好きでしょ?」
「うん、大好きだよ」
一〇円玉が動いた。
――はい。
「やった! じゃあ、つぎ。新しい一〇円玉で」
「え、どうして?」
思わず尋ねると、コナミちゃんは細かいことは気にしない、と言って続けた。
「タムラくんも私のことが好き」
――いいえ。
「え!」
コナミちゃんはこれでもかというほど目を真ん丸に開いていたが、当然だった。
俺がそうなるよう仕向けたん動かしたんだから。
小学二年にしてコナミちゃんへの想いは誰より強かったと自負している。
タムラはちがうちがうと大慌てで弁解していたが、俺の真っ赤に燃え上がる爪先は何度質問を繰り返したって「いいえ」を選択した。
だけど、ようやく三枚目の一〇円玉を置いたとき、コナミちゃんは別に怒った風でもなく、嬉々とした笑みを絶やすでもなく言ったのだ。
そのとき生じた一瞬の間が、俺から絵日記を書く習慣を奪い去ったのだと、いまだから思う。
最初のコメントを投稿しよう!