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たった一言だけ伝えれば、それだけでよかった。 「せい人式の夜、校門にしゅう合!」 几帳面に整頓された引き出しの奥に隠された、小さな箱の中にその手紙を見つけた。幼い文字と、大切そうに仕舞われた十数枚の手紙から、その言葉の意図を読み解くのは容易なことだった。 それからの行動は早かった。 当時通っていた小学校を見つけ出し、新幹線を予約した。 大好きだった彼女に想いを打ち明けられないままに転校してしまった。切ない初恋が、不格好な文字を通して伝わった。 彼女は覚えているだろうか。初恋は特別と言うけれど、本当に待っているかもしれない。 そう思うと、胸が締め付けられる思いがした。 小学校に向かい夜道を進む。 あまりの人気のなさに、引き返そうかと思ったその時、小学校の校門の街灯の下で影が揺れた。まさかと思いながら駆け寄ると、ワンピース姿の女の子が一人立っていた。 この人が… 「えり、ちゃん?」 すると、長い髪を揺らして彼女が振り返った。 驚いた表情の彼女。大きな瞳はまん丸に開かれ、スッと通った鼻筋が寒空の下で少し赤く染まっていた。言葉をなくしてこちらを見つめる彼女に、俺は、一目惚れをした。 一言だけ伝えて終わらせようとしたけれど、やめた。このまま続ければ、彼女にはまた会える。真実を伝えるのは、先でもいいだろう。 連絡先を交換し、彼女の後ろ姿を見送ると、笑みがこぼれた。わざわざ遠くまで来たかいがあった。 帰りの電車を待つ間、埋められていた写真を眺めた。こちらに向かって微笑むりさちゃんは、とても可愛かった。そして、その隣に並ぶ少年も。ぱっちりとした二重の少年に、あいつの面影が重なった。 「こんな顔してたんだな」 そう呟いたとき、携帯電話の着信通知に気がついた。留守電の主はあいつのお袋さん。あいつに今回のお礼がてら、また挨拶に行こう。そんなことを考えながら、留守電を流す。 「この間は部屋のお片付け手伝ってくれて、ありがとうございました。きっと潤も喜んでいるわ。また、いつでも遊びに来てちょうだいね。あっくんが来るの、待ってます」
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