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わたしは訝るように母の顔を見た。母の方は泣きっぱなしで、わたしに会いたがっていた素振りどころか、目を合わせようともしない。 「……お母さん、大丈夫? 何があったの?」 母の肩に触れ、肩を撫でてあげる。すると、ひっ、ひっ、とうわずった声を出しながらも、母はなんとかわたしの顔を見てくれた。 そのまま、糸の切れた操り人形よろしく、だらりと頭を下げてくる。 ぼそ、ぼそ、と何か言っている。 「何? どうしたの?」 「……の」 「うん」 「……の。……あの。 ……『あなた』は、時計屋さんの人、です、か?」 その言葉を聞いたとたん、隣に立っている佐伯さんの表情が、曇った。 母は、突如としていろんな事を忘れる。 わたしの事も忘れる。 それは初めての事ではなかったのだけれど、それでもやっぱり、つららで身体中を突き刺されるような、そんな痛みを感じた。 にこ、と笑ってみせる。 「……はい。ここは、時計屋さんですよ」 「じ、ぢ、じゃあ……。 時計……時計の修理、も、出来ます、か?」 「承ります」 わたしは――言いながら、あの日、あの時、母と交わした会話を、そしてあの日の約束を、思い出していた。 ――母は、あの日わたしに言った。 人は、みんな、それぞれ、大切な時計をひとつ、持っているのだ、と。 そして、その時計は、悲しい事があったり、つらい事があったりすると、針が狂ったり、動かなくなってしまったりするんだよ、と。
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