第1章

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「言い逃げなんて、卑怯だよ……。 ちゃんと、返事させてよ……、梓。」 そう呟くと、僕は急いで自転車を走らせた。 家を出て、15分。 市立病院の駐輪場に自転車を止め、梓のいる病室へと向かった。 いつもなら、30分以上かかる道のりを僕は半分の時間で着いたのは、ある意味奇跡なのかもしれない。 行く先々の信号が、タイミングよく青になるなんて、滅多にない。 こんな奇跡なんて、起きなくていい。 今はただ、梓が無事なら……。 そんな事を考えながら、あらかじめ梓の母親に教えて貰った病室に向かう。 「梓!」 扉を勢いよく開けると、 「真弥! ここは、病院なんだから 静かに扉 開けないと!」 中学時代と変わらない、元気な声が帰ってきた。 「……え? あ、梓。交通事故にあったんじゃ…… 」 ずいぶん、間抜けな顔になっているのだろう、梓はプッと吹いていた。 「笑い事じゃないだろ!」 「そうだね。なんか、久々に真弥の間抜け顔みて、耐えられなかった。ごめん。 ……うん、あったよ。ほら」 そう言うと、掛けられていた布団を捲った。 そこには、包帯がぐるぐる巻きにされた左足があった。 「信号無視した車に跳ねられて左足を骨折しただけだったんだけど、なんか出血が多かったみたいで……。 みんな、大騒ぎしすぎだよ! 」 「……じゃあ、あのメールはなんだったんだよ!」 笑いながら話す梓が気に入らなくて、怒鳴るように切り出した。 「……自分だって、もしかしたらを考えてたから、あんなメール 送ったんだろ!」 「……」 「なんとか、言えよ! 」 怒鳴る僕をみて、梓はゆっくりと語りだした。 「……真弥の言う通り。ほんとは、死んじゃうかもって思った。だって、事故に合うなんて予測できないもん。だから後悔しないように送った。いつかちゃんとして文章で伝えようと思って準備してたけど、上手く纏まらなかったんだけどね」 そう言うと、梓は布団に潜り込んでしまった 「……ちゃんと伝わったよ。 梓がどれくらい僕の事が好きなのか」 「……え」 「なのに、梓は答えを聞かず、逃げようとしたからさ……。 僕も梓の事が好きだよ。こんな時代遅れな僕を好きだと言ってくれる梓が」 驚いて布団から顔を出した梓はうっすらと赤い顔をしていた。 そんな事件があってから、僕たちは頻繁にメールをするようになった。 それは、幼馴染みだからではなく 恋人として。
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