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「その格好で良かったのか?」
全ての事情を知る昌くんが、心配そうに聞いてくる。
「だって、もう無理だって」
そう返すと、そうか、と俺の頭をそっと撫でた。
一応、髪型が崩れるのを気にしてくれているらしい。
これが新ちゃんだったら、ワシャワシャ撫で回すんだろうな。
指定された場所に建つマンションが見える路上で降ろして貰うと、帰りは連絡しろよ、と言う。
「過保護だよ、昌くん」
そう笑うと、過保護なら行かせないけどな?と笑い返された。
少し遠回りさせたから、早く仕事に行って、と手を振れば、頑張れよ、と昌くんは去って行った。
それを見送って、振り返る。
そしてマンションの玄関まで行くのだが、誰も居ない。
そう言えば部屋番号を聞いてなかったな、と思い出し、どうしようかと思案して、メールを送る。
『着いたよ』
すると、直ぐに中から男性が出てきた。
あ。
面影はあるが、大人の男に成長した嘗ての親友。
思わず見惚れる。
「まさか、早雪(さゆき)か?」
辺りをキョロキョロして他に誰も居ないのを確認して。
俺を見て、声を震わせる稜也(りょうや)。
俺にメールを送り付けた張本人に、にっこり笑ってやる。
「うん」
そう返すと、稜也は俺の手を引っ張って、駐車場に停まっていた車の1つに歩み寄ると、俺を助手席に押し込んだ。
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