第1話 森の隠れ家

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好きな漫画本やゲーム機、そして水筒と塩むすびを幾つか持って、ほとんど一日そのあばら屋の居間ですごした。 居間と言っても、部屋と呼べるのはその一間しかなく、あとは汲み取り式トイレと釜の風呂、納戸と小さな台所があるだけだ。 当然、水も電気も使えはしない。 風呂や納戸は蜘蛛の巣や、割れた窓から入ってきた虫の死骸だらけで気持ち悪く、それらには足を踏み入れないようにしていた。 8月も第3週に入ったこの日も、いつものように色あせて反り返ったドアを開け、部屋の隅の綿のはみ出したソファに座った。 中央には手作りのような粗末なテーブルがポツンと置かれているが、椅子が無いので読書はいつもこのソファの中でだった。 建物が大木の木陰にあるせいか、午前中はヒンヤリとして過ごしやすい。 蝉の声はうるさいが、快適だ。 最初こそ「こんな所に入り込んで!」と、大人達に叱られると思っていたのだが、誰も咎めなかった。 祖母も父も、知っていながら行くのをやめなさいとは言わない。みんな自分たちの仕事で忙しい。 雅斗が機嫌良く過ごしているなら、それで良いと思っているのだろう。 そのほうが気楽で嬉しいはずなのに、同時にとても腹が立つ。 矛盾しているけれど、何故だかとても腹が立つのだ。 お母さんがいたら、「危ないから、そんなところで遊ぶのはやめなさいね」と叱っただろうか。それとも、やっぱり何も言わなかっただろうか。 そんなことを考えてみたが、もう雅斗には確かめる術もない。 「ごめんください!」 蝉の声が一瞬、静まった。 今の場違いな呼び声は何だろう。 雅斗がガラスの欠けた窓から外を覗くと、小柄な女の子がその正面に立ってじっとこちらを見つめていた。 見たこともない子だ。
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