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あたりの緑に溶けてしまいそうな柔らかな萌葱色のワンピースの裾を揺らし、少女はニコリと笑った。
真っ直ぐに伸びた、細く形のいい足に引っかけた白いサンダルが、目に染みるほど眩しかった。
雅斗はしばらく呆けたようにその少女をただ見つめていた。
互いに見つめ合う形になったが、先に口を開いたのは少女の方だった。
「ここはお兄ちゃんのお家なの?」
少女は1カ月前にこの近くに引っ越してきたばかりなのだと教えてくれた。
小学2年生で、名前はマーヤ。
「マーヤ? 変な名前」
雅斗がゆっくり外に出て行きながらそう言うと、少女は木の枝を拾ってその場にしゃがみ込んだ。
覚えたばかりらしい歪な字で、土の上に「真綾」と書く。
書き終えると顔を上げ、柔らかそうな頬にえくぼを作って、またにっこり笑った。
肩までの絹のような髪がサラリと流れる。
思わず雅斗も、つられて笑ってしまった。それほど屈託のない、可愛らしい笑顔だった。
胸に思いがけず温かいモノが溢れてくるのに戸惑いながら、雅斗は少女を自分のテリトリーに招き入れた。
自分でも意外なほど、それは自然な行為だった。
「僕の秘密の隠れ家なんだけど、特別に見せてやるよ。おいで」
そういってマーヤの手首を掴んだのは無意識だったが、その骨の細さと、サラリとした柔らかな皮膚の感触に、胸の奥がギュッとなった。
自分とはまったく別の個体なんだという、それはとても不思議な感覚だった。
マーヤはボロボロの廃屋の中身を見てキャッキャとはしゃぎ、ベニアの剥がれかけた壁を触ったり、台所の隅にあった土埃だらけの茶碗を手にとって、面白そうに眺めたりしていた。
その仕草のどれもが愛らしく、柔らかなその髪やワンピースが揺れるたびに、花のような匂いがした。
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