シャープペンシルと編み棒

10/21
前へ
/21ページ
次へ
きゃはは、とわざとらしいはしゃいだ笑い声をあげる。ナカちゃん、は、我が文芸部の顧問。手芸部も兼任していたはずだ。先生にしてはちょっと軽めな性格の彼を、中田先生、と呼ぶ生徒は少ない。 「一応、極々常識的な人間のつもりなんだよーう。みんなして変だの疲れるだの失礼極まりない」 「マフラーで首吊りだの言い出されたら、そりゃあ疲れると思うんだけど」 「だってマフラーって伸縮性あるし丈夫だし、たぶん首吊りにぴったりだよ」 魔法使いがナイフを扉に突き立てるか、彼の首に突き立てるか迷っているシーンをかたかたと書く。扉に突き立てて扉を壊したとしても、世界が戻ってくるとは限らない。最後の希望を壊さないように、自分を壊してしまった方がいいのだろうか……。 袖をまくろうとして、やめる。 「ねえ、」 その腕をむんずとつかまれる。ちょうどミミズ腫れになっているところにあたって、肩がすくんだ。 「え、あ、ごめん」 「いや、ううん、ごめん。怪我してるとこだっただけ。なぁに?」
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加