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かたん、と音がした。ソウタ君の椅子がひっくり返った音だった。ソウタ君の手が、あたしの手首から手のひらに移動した。ちょん、と軽く引っ張られる。昨日あたしがソウタ君の手から編み棒を引っ張ったように。
ならば。
あたしも素直に立ち上がるしかない、でしょう。
「ねえ、ちょっと付いてきてよ」
「……いいよ」
たった三文字の肯定の言葉を口の端に乗せた、と同時にソウタ君はあたしを引っ張って走り出す。がらがらと乱暴にドアを開いて、冬のはやい夕暮れに紅く染まる廊下を、あたしの手を引いて走る。
あーあ、楽しいなぁとなんだかとても哀しいくらいに切実に感じる。
ねえ、ソウタ君。
あたしあなたに手を引かれるんなら目隠しされたって全力で走ってあげる、と真っ黒の背中に呟いた。
*
ひゅおう、と足元から吹き上げる風にあおられた前髪を抑えながら、あたしは荒れた呼吸を整える。ソウタ君もたぶん加減してくれたんだろうけど、だいぶきつかった。へたんと膝から力が抜けそうになる。
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