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中学校に進学してからもその体質は治らず、最初の生徒同士の交流の機会である炊事遠足の時も大雨に見舞われ延期になってしまった。それを同じ小学校から進学してきた友人が晴哉の体質を暴露すると、瞬く間に糾弾の的となってしまった。新生活に心を躍らせた矢先の雨男事件は、間違いなく彼の未来に暗雲をかけたのだった。
結果として、深い付き合いの友人は出来なかったと晴哉は考える。昼休みは大人しく図書室に向かい本の虫と化す草食系男子だったからだ。実際体育は苦手で、あまり昼休みに活発に外でサッカーをするような趣味はなかったというのもあるのだが、彼は図書室で一冊の本と出合った。
それは「マーフィーの法則」という本で、名前こそ難しそうだが実際には自虐的なアメリカンジョーク集であった。色々な引用こそあれど、その全てに大体共通していたのは「起こりうる可能性のあるものはいつか起こる」という自虐的悲観論と、過去に起きたトラウマを引きずってしまう経験法則であり、雨男のレッテルを貼られ悲しんでいた晴哉の心の支えとなったのだった。
思えば、いくら雨男とはいえ365日常に雨という訳ではない。現に図書室の外は燦燦と陽光が差し込む運動日和だ。全ての雨を牛耳っている訳ではない…。そう思うだけで彼は、この鬱屈とした現状にも耐えられる気がしたのだった。そして彼はその本と法則との出会いを境に、雨男の宿命を背負いながらも気丈に生き、ネガティブに考えすぎないよう努める事を決意したのだった。
~*~
「おいおい、今日雨で体育体育館に変更だってよ」
「ほんと、傘梨の雨男っぷりは健在だな。砂漠にでも行た方が世界のためだぜ」
「良いけど砂漠が液状化しても知らないぞ?」
高校にもなると、最早晴哉はそれを自虐ネタとして使うまでになっていた。偏差値に見合った地元の高校に進み、未だに雨男としてイジってくる友人こそあれど、昔のように陰鬱に悩むことはなかったのであった。部活も文芸部で、いくら雨が降ろうが関係なし。むしろ、彼は自分の持ち味を生かした雨にまつわる作品を書こうとしていたのだった。
「部長、部誌の原稿出来たっす」
「うん、ありがとう」
二年生の時、一つ上の文学部部長に原稿を渡した時が最も印象に残っている。濡羽色の長髪に銀縁眼鏡が如何にも利発そうで、部下からの信頼を多く集める頼もしい女子だった。
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