4人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな新生活に躍った胸の高鳴りもようやく落ち着いてきた頃、晴哉は最初に配属されたゼミである出会いをする。その相手とは、容姿端麗で所謂「大学デビュー」を履き違えておらず、分け隔てのない接し方をする、戸井雫(といしずく)という女子だった。彼女とは共同の調べものをする際に組んだチームで一緒になり、単位取得のため躍起になってカリキュラムに詰め込んだ講義が偶然にも重なっていたこともあり、両者が力を合わせて調査を進められ、結果的に納得のいく発表をすることができたのだった。発表を終えた後、その献身的な協力をしてくれた雫は晴哉に声をかけてきた。
「傘梨君、お疲れ様。上手く行って良かったね」
「いや、俺は何も…。戸井が手伝ってくれなくちゃ、きっと右も左もわからなかったと思うから」
晴哉は心の底からの謙遜を口にした。一応他にも二人ほどメンバーはいたのだが、さほど積極的に手伝ってくれるということはなかったため、人一倍雫に感謝の意を抱くのは当然の事であった。そこで晴哉は、彼自身も自分で驚くほどの大胆さを持って、他に人目がないのを良い事に、都会へ出て来た高揚感のままに大胆な言葉を発したのだった。
「だ、だからさ。今度暇あればお茶でもどうかな。俺上京して間もないから、あまり知ってる店とかも少ないけど…埋め合わせというか、感謝がしたいんだ」
「や、やだ、よしてよ傘梨君ったら。義理堅いにも程があるよ」
やんわりと断られたため晴哉は内心ショックを受けかけたが、それは彼女なりの照れ隠し…否、先程の彼と同じく謙遜なのだという事がなんとなくニュアンスでわかった。手を顔の前でぱたぱたと振りつつそう言い放った後、しばし考える素振りをして再び彼の方へ向き直った。
「…で、でも私もあまり男の人受けするような場所知らないけど…良いの?…こういうの、今までしたことなかったから」
「うっ…」
改めて、「こういうの」と強調されると晴哉は恥ずかしさでその場から逃げ出したくなる衝動に駆られた。彼は紛れもなく、同じゼミの女子にデートを申し込んでいる。知らない土地とはいえいくらなんでもはしゃぎすぎではないのか?彼自身そう思ったが、口にしてしまい雫も本気にした以上、もう後には引けない。晴哉は腹を括って、勇気を持ってさらに言葉を続けた。
「…い、良いよ。戸井がノープランでも良ければ、是非一緒に行きたいんだ」
最初のコメントを投稿しよう!