雨男の唄

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しかして、そんな絶望に浸る時間は雫の出し抜けに放たれた言葉で急転直下の終わりを迎えたのだった。 「えっ、傘梨君もそうだったの?」 彼女の口から放たれた言葉を一瞬理解できず、晴哉はその言葉をオウム返しにして確認した。 「『も』って…もしかして」 彼の恐る恐る聞いた言葉に、雫は困ったように眉根を寄せて返事をする。 「…うん。実は私も、すっごい雨女なんだ」 次の瞬間、外は絶えず雨が降っているにも関わらず晴哉は二人の間だけ晴天が広がったような心持になった。今までふさぎ込んでいた暗雲が、秘密を共有したことによって晴天の彼方へと吹き飛ばされて行ったような、得も言われぬ爽快感をもたらしたのだった。 「…子供の時、遠足とか体育が延期になったりした?」 「うんそうそう!極め付けは高校の修学旅行の時も私の班だけ局地的な雨に襲われた事かな」 「そりゃ俺よりも凄いな」 色眼鏡によらなければ、今の彼女もとても楽しそうだ。雨に悩まされていた二人の若者は、今や雨の悩みを話すことで安らぎを得ている。忌む対象でしかなかった雨でこんなに晴れ晴れとした気持ちになれた事に対し、晴哉は言い様のない多幸感に満たされかけていたのだった。 「じゃあ行こっか。私、雨の日は割引になる喫茶店知ってるんだ!まずはそこに行って、傘梨君と雨トークでもしよっかな」 「あっ、待った。キオスクでビニール傘買いたい」 しかし、今からデートが始まろうとしている所に晴哉は待ったをかけてしまった。雨男の自覚があるのに傘を持ち歩かないのは自分でも不用心だとは思うが、それを否定したい変なプライドが邪魔をして、前もって予報でもされない限りは傘を持ち歩かないというのが彼の妙なモットーなのであった。だが、そんな彼を見て雫は不敵な笑みを浮かべた。 「ふっふっふ…その必要はないよ傘梨君。実はこんな事もあろうかと、私は常に折り畳み傘を持っているのです!」 彼女がポーチから取り出したのは、赤いチェック柄が可愛らしい小さな折り畳み傘だった。自分と違って用意周到な所に感心する晴哉だったが、すぐに気持ちを取り戻す。 「いや、それを借りる訳にはいかないよ。そうしたら戸井はどうするんだよ」 「…それ、ボケのつもり?」 すると、雫は呆れたように言葉を放ってきた。予想だにしなかった言葉に面食らっていると、晴哉の手に傘が押し付けられる。
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