この夜の終わりに

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「最悪だ、この世の終わりだ、、、」 逃がしちまった、逃がしちまったよ。俺は。 見つけたのに、せっかく見つけたのに。 神様の思し召しか、奇跡的に出会えたのに。 逃がしちまった。 最悪だ、この世の終わりだ。 逃がした魚は大きい、とは、このことだ。 大物だった。たしかに大物だった。 そしてなによりも、輝いていた。 闇の迫るなかで。 おまえを見つけた、あの瞬間 運命だと、直感するよりも素早く おまえを掴んでしまえばよかった。 潰れそうなほど、きつく 抱きしめてしまえばよかったんだ。 でも、ためらった。俺のミステイク。 最悪だ、この世の終わりだ。 悔やんでも、悔やみきれない。 ああ、なんてこった。 今日はひどく疲れているというのに。 今夜ははやく寝たかったのに。 なにも知らずにいればよかった。 いっそのこと、出会わなければよかった。 こんなにも、会いたいと 熱い想いが、募るぐらいなら。 こんなにも、この胸が 苦しくしめつけられるぐらいなら。 おまえは今ごろ どこでなにをしているのだろう? 夢で会えたって、意味がない。 もう忘れられそうにない。 神様、もういちどだけ会わせてください。 もしも願いが叶うなら 次こそは、確実に、追いかけてでも しとめますから。 ゴキブリ。 殺虫剤、取りに行ってる間に いなくなりやがって。 こんなにも、寝る間際に見つけたら くそっ、気になって、眠れない。 闇に紛れ、壁をつたい、近づいてきそうで 安心安全でいられない。 明日の朝も早起きなのに おまえのことばかり考えちまって 寝つけなくて この夜が、終わってしまいそうだ。 準備はできた。 武器はそろっている。 完全に包囲している。 さあ、はやく、出てこい。 さっさと寝たいんだ。
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