始まりはすれ違いから

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 俺が仕事に取りかかってから早二時間、数人しか居なかったオフィスに続々と勤務している者たちが集まってきていた。日勤組がやってきたのだ。一番仕事量が多い日勤に当たっている人数が一番多いのは至極当然であり、活気に溢れるのもまた当然の出来事だった。因みに、この部署は新設部署と言う事もあり、勤務している者は年齢層やキャリアがばらばらで、老若男女が勤務しているし、ごく少数だが外国人も勤務していた。そして日勤組の中には彼女の……秋山椛の姿もあった。彼女の顔を見ただけで少しだけ気分が重くなる。だがそれとこれとは話が別だ。俺は思考を拭い去るように首を左右に振ると声を張り上げた。 「朝礼です、集合してください!!」  9時になると当番に当たっている俺が合図を出す。すると、勤務者達が俺の机の前に整列する。それと平行し自分自身もゆっくりと立ち上がると机を前に立ち、整列している勤務者達を見渡す。 「はい、皆さんおはようございます。」 『おはよーございます!!』 俺が挨拶すると勤務者達も続いて挨拶をする。これがこの部署での朝礼の始まり方である。 「えー、本日は特に会議等の予定は無いので、期日までに仕事が終わる様にいつも通り皆さんで協力して仕事に当たって下さい。本日のノルマ目標は――」 この部署での朝礼は挨拶から始まり、仕事の目標の設定、会議での決定事項の報告などの業務連絡が行われる。 「――以上です」 「はい、ありがとう。では、皆さん今日も1日宜しくお願いします。」 『宜しくお願いします!!』  全員が揃って会釈した後、勤務者達は散り散りになって移動を開始する。ある者は自分のデスクに戻り、ある者は同僚を連れて外回りに、またある者は書類を他部署に届ける為に。まるで乱された蟻の行列の様だが決定的に違う部分がある。パッと見だとぐちゃぐちゃに見えるが、各々がぶつからない様に更にすれ違いざまに情報交換を行いながら移動しているのだ。また勤務者はオフィスから出る際に目的を口にしてからオフィスを出て行く。  五分後、騒がしかったオフィス内は残って仕事をする者だけになっているので先程までとは比較にならない程静かになっていた。これが日常的な風景なのだが、初めて見る者は呆気に取られるだろう。
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