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家族全員で震えあがり、朝を待って靴を捨てに行った。でも、学校から帰ったら、靴は再び玄関に舞い戻っていた。ちなみにその夜、いっそう騒がしく家中を何かが歩き回る…いいや、走り回る音が響いた。
明日になったらもう一度捨てよう。明日はゴミの回収日だから、明日捨てればもう戻っては来られない。
朝になるのを待ち、他の生ゴミと共に靴を捨ててくる。これで、数時間後にはあの靴は収集車の中だ。
安堵の息を吐き、ゴミ捨て場を離れかけた時だった。
微かに物音と気配に気づき、振り向いた俺の視線の先に、生ゴミの袋を上に置いて見えなくした靴があった。それだけでも驚くべきことなのに、見つめる俺の視界の中で、靴はどんどん大きくなる。そう、近づいてきている。
仰天して走り出したが、時々振り返って確認するたび、一定の距離に靴が存在していのが見えた。
どうやら追いかけてきているらしい。どうする。どうする? どうする!
家に逃げる訳にもいかず、このまま学校へも行けず、遅刻覚悟でぐるぐると近所を走り回る。そんな俺の目に救いの姿が飛び込んだ。
ゴミ収集車だ。
でも、改めて靴を集積場においても、係の人達が手を出す前に走って逃げるかもしれない。そして再びうちに来るかもしれない。
どうしようと考え込む俺の目に、この中からはみ出たらしいコンビニのビニール袋が映った。
咄嗟にそれを掴み、怖さも忘れて靴をぶち込む。口をきつく縛り、作業を始めた係員さん達の所へ持って行く。
「すみません、これ…」
「ああ。一緒に持って行くから、そこに置いておいて」
「お願いします! こいつ、すぐに収集車に放り込んで下さい!」
必死の形相で袋を差し出すと、一瞬怪訝そうな顔をしたけれど、係員さんはすぐに袋を受け取ってくれた。そいつを、放り込むとゴミをある程度粉砕するタイプの収集車に投げ込む。
一瞬、呻き声のようなものが聞こえた気がしたが、すぐにそれは他のゴミが砕かれていく音の中に掻き消えた。
あれ以来、我が家の怪異はぴたりと収まったが、あの靴が何であったのかは、いまだに家族で議論になる話題だ。
後、我が家に一つルールができた。
家の中に見知らぬ物が増えていたら、誰が入手してきたものかをはっきりさせること。
この新ルールのおかげで、あれ以来我が家に奇妙なことは起きていない。
見知らぬ靴…完
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