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「最悪……この世の終わりよ……」 俺はただ道を歩いていた。 いつもと変わらぬ街並み、いつもと変わらぬ喧騒。 すれ違いざまに見知らぬ女が力無く呟くものだからなんとなく気になり、ふと振り返ってその女を目で追った。 女は赤信号に変わったばかりの横断歩道をまるで気にも留めない様子で進んでいく。 急いで走り抜けることもなく、機械のようにただ漠然と足を動かしている。 そして中頃に差し掛かったところで走ってきたトラックに轢かれた。 一目で生きてはいないとわかる無惨な姿になっていた。 喧騒が悲鳴混じりになる。 すぐにスマホを取り出しいじり始める者、横たわった女に近づく者、遠巻きに見守る者、何が起きたのかわかっていない後続車の鳴らすクラクション。 辺りは一気に異様な空気に包まれた。 俺は前に向き直り、群衆を尻目に再び歩き出した。 ばかな女だ。 死んで終わらせようなんて。 少し進んだところで肩を掴まれたので振り返ると、先ほどの女が血まみれで俺を睨んでいた。 「死んだら全て終わるんじゃないの? どうしてあの人への憎しみが増すの? 憎い。憎いの……」 ぽっかり穴が空いたような黒目を滲ませながら、うわ言のように言った。 女はもうここから動けない。 俺は手を払いのけ歩き続けた。 死ねば終わりというのならそんな楽なことはない。 しかし死は終わりではない。 この女は誰かを憎しみ続け、俺は受験するはずだった高校へ歩くことを繰り返す。 あの日からずっと、俺の足が痛むことはない。
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