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夜、姉様が縁側に腰掛け明るく耀く満月を見上げていた。
「どうなさいましたか?」
「あら、直まだこんな時分に起きていらっしゃったのね。」
「泣いていませんか?」
だって頬に痕があります。目尻がいつもより瑞々しく光っております。
「見られてしまいましたね。
もうすぐこの城を出ます。嫁ぐ私の最後が泣き顔では心配かけますね。」
姉様、皆が口々に "姉様は幸せだ" と仰っておりました。泣く必用がございますか?
「姉様は縁談のお話の際には、馬に乗る姿は凛々しく、戦姿は勇ましい、素敵なお殿様の元へ嫁ぐと嬉しそうにお話されていたではありませんか?」
僕の慕う正太郎は乗馬もできず闘ことはなく勇ましくもない。けれど僕を若様ではなく、"ただの人" としての笑顔を望んでくれる方ですよ。
きっと皆が幸せになれるとお話しされる素敵な殿方なら姉様の喜びを簡単にお与えくださるはずです。
と誰にも言えぬ惚気を心の奥だけでしてみる。
「そうよ………わたくし……は、"幸せ" なのです…。」
姉様の声と肩は震えている。幸せを掴む方はこんなにも辛そうな色を浮かべるものなのですか?
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