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 涙を堪え、幸せと仰る姉様の本心は…… どこにございますか?  姉様にもお慕いする殿方がどこかにいらっしゃるのでしょうか?  嫁ぐ方は干支を一周半回る年の差があるし、正室で迎えられるものではないと耳にしました。 「今宵のおぼろ月は……たいそうお美しいですね……。」  震える声で空を見上げる横顔は儚く、僕の胸を締め付ける。 「今宵の月は……姉様にも…………お慕いする殿方が……。」  これ以上を言葉にしてもいいのでしょうか…… 「………心配しないで。優しい殿方だとお聞きしますから。きっと心惹かれるはずですよ。私の想いなど……持っていくわけにはいきません。」  凛と背筋を伸ばし儚く微笑む姉様は叶わぬ想いを心に秘めたまま嫁ぐのですか?  僕のように、もしも とお考えになることはありますか?  お心だけは、お慕いする殿方の元へ置いていってはいけないのでしょうか?  お慕いする心を捨てなくてはなりませんか……  姉様のお心は捨てられるのですか……  姉様…… 今日、姉様の笑顔と、とてもよく似た笑顔に川辺で会いました。  煌々と輝く満月を見上げながら、どうにもならぬ心を何故人は抱えてしまうのか、抱えた心をどうするべきなのか考えるが答えは分からなかった。
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