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日増しに若様、若様と、頬を染め直の見回りを心待ちにする村娘が増えた。
一緒になって頬を染め直と呼ぶ姿を想像し、渇いた笑いと共に草刈りをする手に力を込めた。
身分が違いすぎる。直はどんどん立派になっていく。もう元服の頃だ。
本来なら口すら利いてはいけないんだ。
なのに…… 朝になるとよく直が現れるから共に山へ向かってしまう。
こんな気持ちを知ったら直は二度と近づかなくなるだろう。友だと言ってくれたのに、この裏切りはない。
それでも朝になると期待してしまう。
また今日も、と…………
共に淡く色づく山を見上げ春を見て、滝壺に跳ねる水飛沫の心地よさから夏を感じ、渓谷を流れる落ち葉に秋を見て、朝日の遅さに冬を感じてきた。
いつまで続くのか、いつまで来てくれるのか、いつまで直と呼ぶことができるのか、日増しに色気を帯びる直を抱き締めたいと疼く腕に力を込めて腕を下げる。
幼く無垢で笑顔が可愛らしかった直に、今は心寄せ胸を焦がすなどと気が付くべきではなかった。
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