三半

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 直はそれからすぐに元服し直という名前は使われなくなった。そして家督も譲り受けたらしい。 「光頼様、まだ山遊びなどして宜しいのですか?」  わざと距離をおく、気持ちだけでも離れないと……  何を今更 と言わんばかりの呆れた笑顔を向けられた。 「正太郎と共にいるときだけが、俺が俺で居られる時なんだ。そんな迷惑そうな顔をするな。 あと、この時だけは直と呼んではくれないか?」  あまり俺を喜ばせないでくださいませんか? この時が永遠と勘違いしてしまいます。線を引いてはくれないのですか?  話し言葉くらい変えた方がお互い距離も感じる事ができるだろう……  なのに、この人は……まるで変わらず俺と共にいようとする。  俺の心配事がただの杞憂のように…… 変わらぬものなど…… 永遠に続くものなどありはしないのに……  滲む視界を拭い手を取り高い木を昇る。遅い朝日が昇るころ空が少し明るくなり、一点の強い耀きが空をどんどん染め始め美しい直の横顔を照らす。  神々しい日差しが俺の心を浄化してくれたらと涙を堪える。  この幸福な時をなくしたくない。  もう幼い俺のお殿様は俺の背を抜き逞しく雄々しく成長された。 「正太郎は結婚はしないのか?」  は? と心の怒りが口から漏れることを飲み込んだ。 「農民の三男が嫁ぎ相手なんて、なかなか難しいことを言うな。農民が城主ほど婚姻がはやいはずないだろ。」  ははっと笑い、何も心は傷付いていないと強がる。 「隣の妙は?」 「妙は直に夢中だよ。それに妙ならかかあ天下だな。恐妻はごめんだ。」 「かかあ天下の方が良いって言うだろ。」  やめてくれ  至って普通の会話が続くことが辛い。  お前が結婚を薦めるなんて……  どれだけ涙を堪え友でいるかなど直に分かる筈もない。  もしも一人で思いきり泣いたなら、この心も流落ち直の前で強くいられるかな?
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