57人が本棚に入れています
本棚に追加
直はそれからすぐに元服し直という名前は使われなくなった。そして家督も譲り受けたらしい。
「光頼様、まだ山遊びなどして宜しいのですか?」
わざと距離をおく、気持ちだけでも離れないと……
何を今更 と言わんばかりの呆れた笑顔を向けられた。
「正太郎と共にいるときだけが、俺が俺で居られる時なんだ。そんな迷惑そうな顔をするな。
あと、この時だけは直と呼んではくれないか?」
あまり俺を喜ばせないでくださいませんか? この時が永遠と勘違いしてしまいます。線を引いてはくれないのですか?
話し言葉くらい変えた方がお互い距離も感じる事ができるだろう……
なのに、この人は……まるで変わらず俺と共にいようとする。
俺の心配事がただの杞憂のように…… 変わらぬものなど…… 永遠に続くものなどありはしないのに……
滲む視界を拭い手を取り高い木を昇る。遅い朝日が昇るころ空が少し明るくなり、一点の強い耀きが空をどんどん染め始め美しい直の横顔を照らす。
神々しい日差しが俺の心を浄化してくれたらと涙を堪える。
この幸福な時をなくしたくない。
もう幼い俺のお殿様は俺の背を抜き逞しく雄々しく成長された。
「正太郎は結婚はしないのか?」
は? と心の怒りが口から漏れることを飲み込んだ。
「農民の三男が嫁ぎ相手なんて、なかなか難しいことを言うな。農民が城主ほど婚姻がはやいはずないだろ。」
ははっと笑い、何も心は傷付いていないと強がる。
「隣の妙は?」
「妙は直に夢中だよ。それに妙ならかかあ天下だな。恐妻はごめんだ。」
「かかあ天下の方が良いって言うだろ。」
やめてくれ
至って普通の会話が続くことが辛い。
お前が結婚を薦めるなんて……
どれだけ涙を堪え友でいるかなど直に分かる筈もない。
もしも一人で思いきり泣いたなら、この心も流落ち直の前で強くいられるかな?
最初のコメントを投稿しよう!