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出陣式のあと、国を出た。
山間に正太郎の姿を見つけ、此が今生の別れになるのかもしれないなら、せめて想いだけでも伝えたかったと後悔が身を這いまわる。
「必ずや………また……」
戦地に着き陣をとり、冷たい陽射しの下、法螺貝の高らかな響を合図に始まった戦。
武将の横には廉介が居た。
「必ず国で酒を呑みましょう。光頼様が帰らなければ、正太郎殿の生活が心配されましょう。」
もしも、自分が倒れたら国は誰が治めるのだろうか。
農民の暮らしは?
正太郎の暮らしは?
自分の目の届かない場所で苦労するのなら決して倒れる訳にはいかない。
意を決し前を見据える。卑怯な戦いなど承知で裏を取るべく小隊を後ろに配置させている。
「廉、案ずるな。私は弱くないぞ。」
口角をあげろ、弱さが伝播する……
必ずや正太郎の元へ
倒せ
斬りつけろ
怯むな
命……奪うまで
………………………
肉を斬る感触を手が覚え、血の臭いが鼻に付くもすぐに慣れた。痛みにあがる悲鳴が耳をつんざき、死の戦慄が脳に刻まれる。死の恐怖に引きつる目と視線が合う。
「もう、挑んでくるな……引いてくれ……。」
そんな目でみるな……
「……無……念…………」
また一つ消えた
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