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何人斬ったのか屍ばかりが目に入るころ敵方が後退を始めた。手や服にべっとりと血が付いている。刀身を振り血を払い鞘に収め目を綴じる。
なんとも遅すぎる撤退か…………
山永様の根回の周到さに見た目以上に数の有利も働き2日の内に決着がついた。菅沼だけではなく近隣諸国に救援を要請し、この戦いで実質の同盟国だと知らしめたのだろう。
「若様、やりましたね。いえ、もう殿ですね。」
ほっと息を整え、廉介に微笑む
「生きて戻れるな。早く国に帰りたいものだ。」
「正太郎殿が喜ばれましょう。」
何処まで気が付いているのか……
生きて正太郎に会えることに安堵すると身体の震えが始まる。きっと斬ることに慣れることはない…… 冥福を祈ると廉介が人知れず肩を抱いてくれた。きっと俺の弱さを隠したのだろう。
「……っ、すまない……。」
弱さを見せるべきではないのに、廉介には幼い頃からの甘えがでてしまう。
「いえ……、皆が殺生など辛いものでしょう。」
どこまでも気の回る連介は美しい目を細め俺の弱さを包む。
風が血の臭いを運び、空には血肉を求めた黒い鳥達が旋回する。
山永様の計らいで、近隣諸国の武将と勝利の盃を交わした。お互いが裏切らぬよう、それぞれの国の姫を人質に政略結婚させ同盟を結ぶ事になり、何人かの娘が菅沼の城へ来ることを悟り正太郎の顔が過る。せめて、正太郎に幸せな家庭があったなら諦めも付くものを……
国の頭になっても手に入らないものは手に入らないのだろう。
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