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朝早くに直が迎えに来る。なにもない小さな農家に男三人と両親が狭苦しく住む。此の家で子供は家の手伝いをしなければならないが、母親は絶対に遊びに行かせてくれる。
「ショウ! 起きよ!」
起きてるよ、待っていたんだ。早く母の許可を得てくれと心の中で言う。
山を上り二人で走りまわっていると直が草が胸まで生い茂った場所へ向かってしまった。
「危ない!」
腕を引き自分の身体に納まる小さな身体。
必死で自分と同じだと言ってくれることが嬉しくて二人きりの時だけは、直と呼ばせてくれる優しさに甘え、兄の様に振る舞ってしまう。
でも、いくさごっこでは太刀打ちできない。大きな瞳を輝かせ顔一杯に溢れるほどの笑顔を向け、褒めてと抱きついてくる。
かくれんぼなら負けない。
でも、ほら必死に探してくれる姿がいじらしい。勝ちは譲ろう。
くくっと喉の奥に笑いを閉じ込めて、静かに草木を少しだけ触り着物を揺らす。
「見つけた!」
またご褒美にと抱きしめると俺の髪が乱れた。
くすっと息が漏れれば直の髪にかかる。直は俺の髪をよく触るな。
くすぐったい。
無垢で可愛い直との大切な時間。俺に弟がいたらきっとこんな感じなんだろう。
そして楽しい時間はすぐに終わりを告げる。廉介様が御迎えにいらっしゃる。
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