第一章

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 その日の夜はいつにも増して冷えていた。小さな声でそう就寝を訴えた凜子は、寒さに耐えるように縮こまりそっと目を閉じる。失敗も、成功も、感動も、全部含めて今日起こったことを布団の中で反芻し、そしてこれから起こりうる未来に胸を膨らませながらこの子は眠りに落ちるのだろう。   何となく外の様子が気になりカーテンを開ければ、Cの字に欠けた細い月が少し曇った窓ガラスを通してぼんやりと輝いている。淡い黄金色の月明かりに照らされうっすらと輪郭の浮き上がった灰色の雲は、煙のようにゆっくりと音もなく星の下を漂うのだった。  外の景色を見て感傷的な思いに浸りつつ、僕もまた小声でお休みを言ったあと部屋の明かりを消した。枕に頭を乗せ、布団の中でかじかんだ手を擦りあわせていると、ざあーと幾枚もの枯葉がアスファルトの上を滑走する小気味のよい音が外から聞こえてくる。しかしそれも微かで、それ以外は音もなく静かだった。
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