序章

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 どうやら凛子(りんこ)は最近テレビに熱中しているらしい。  あれは確か珍しく何もない平和な日曜の朝だった。  その日、凛子は早起きしてとある少女向けテレビアニメを必死になって観ていた。普段は昼近くまで布団と同化しているはずの朝寝坊の彼女が睡眠時間を削っていたぐらいだから、たぶんよほどそのアニメが気に入っていたのだろう。  後から起きてきた僕は不思議がり、彼女にこう尋ねた。 「……テレビ、そんなに面白い?」 「うん。すごく」  彼女の視線はテレビ画面に向けて固定されたまま、一ミクロンも動く気配がない。彼女の脳が何をエネルギーにして日々稼働しているかはともかく、この子はアニメ一本観るにも果てしない集中力を発揮する。 「テレビを考えた人間は天才だと思う。私、無人島に何か一つ持っていって良いって言われたら、絶対にテレビを持っていくことにするよ」 「なんだそのシチュエーション」  彼女の思い描く無人島生活がいかなるものか想像もおよばないが、ともかく彼女のテレビにかける熱情は何となく伝わってくる。いくら彼女が他の人間とは脳の造りが違うとはいえ、何か好きなことに夢中になる姿は普通の子供となんら変わりはない。  確かにここ数日の凛子の言動を見る限り、彼女はすっかりテレビアニメの影響を受けているようではある。 「日記?」 「そう。さくらんぼの絵が大きく表紙に描かれている日記帳。お願い。買ってよ。買えよ」 「何で命令形なんだ?」 「買ってください」 「よろしい」
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