第三章

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 凜子を連れて山荘に戻り、橋が切り落とされていたことを報告すると、参加者たちは最初に脱出ルートを探し出すことを始めた。けれどここは標高千メートルを超える北アルプス氷霜(ひょうそう)岳五合目、「雪稜(せつりょう)山荘」。橋が切り落とされた以上、下山するのは至難の業、その上周囲に生い茂る原生林が電波を妨害しているため携帯電話等の通信手段も使えない。  結局あと四日間はこの山荘にいなくちゃならないことを理解した参加者たちは、次に誰が橋を切り落としたのかという犯人捜しを始めた。この一連の騒動で真っ先に疑いの目を向けられたのは使用人の荒井だった。一見、彼以外の参加者には橋を切り落とす動機と手段がないように思われたからである。  対する荒井はそれを否認した。では雪女とはそもそもどういった関係かと問い詰めると、彼はゲームの使用人を勤めるまでの経緯を早口に説明した。 「今から四か月前、雪女と名乗る人物から専属使用人の依頼をなされたのでございます。内容は四日間この雪稜山荘で行われる宝探しゲームの管理。雪女は己の素性を一切明かさないこと、私が必ず雪女の指示通りに動くことを条件に莫大な報酬金を提示してきました……」  報酬の手続きや細かい指示だしなどは全てメールでやりとりされていたようで、そのため荒井は雪女の素性を知るどころか顔すら見ていないという。もちろん、焦げた片腕のことや橋が切り落とされたことについては「知らない」の一点張りであり、最後まで犯行を否認し続けた。  僕はすっかり冷めてしまったコーヒーをすすりながら、犯人捜しが行われる様子を冷静に眺めていた。すると横から凜子が僕の服のそでを引っ張ってくる。 「退屈だし、宝探しゲームをしていようよ」 「本気か?」 「だってそのために来たんでしょ」  最初から脱出など考慮に入れていない彼女は待ち時間を有効に使ってあわよくば一千万円をわが物にしようと考えたわけである。マイペースなやつだ。人が一人殺された状況であるにもかかわらず、この子の謎に対する好奇心っていうのは底を尽きない。まあ……それも凜子らしいといえばそうかもしれないが、この状況下で悲鳴をあげるどころか逆にウキウキし始めるというのはいかがなものか。
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