第1章

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最悪だ……。 この世の終わりだ……。 活動を待つ真っ黒なスマホの画面に自身を映し出すと、その顔が「絶望です」と訴えてくる。 外は今日も破滅的に暑く、ただ立っているだけで額に汗が滲んでくるというのに、背中から腰にかけては流氷を押しつけられている気分になった。 腕時計に目をやる。 彼がやって来るまで、あと5分。 ちょうど到着した地下鉄があったのか、まるで蟻が巣から湧き出すように、人の群れが階段をわらわらと上がってくる。 でも出口に立つわたしには、みんな申し合わせたように無関心で。 ありがたいと顔をそむけ、何気なさをよそおい、またスマホでもって自分の顔面を、特に口元を確認した。 赤みの強いオレンジベージュの口紅の谷間、正面の前歯から右に2本目。 本来あるはずの差し歯が、「お達者で」と姿を消していた。
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