第1章

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人を好きになるのも、足しげく通った美容室に見切りをつけるのも、そのきっかけはほんの些細なこと。 取るに足らないそんな小さなことが、回り回って大きな危機を招く。 そんなことなど露ほども気づかなかった、今朝のわたしに忠告したい。 昼食は彼と取ろうって決めたから、それまで絶対にお腹なんか鳴らしちゃマズイと思って、念には念をとトーストのあとにチョコレートをかじった今朝のわたしに、ぜひとも一言物申したい。 どうして女らしくひとかけらずつ割って食べなかった? カチカチの板にかじりついた時にいささか不具合を感じたのに、どうしてそれをそのまま放置した? 午前中いっぱい猶予はあったのだから、歯医者に行ってからだって、待ち合わせにはじゅうぶん間に合ったはずなのに。 生来の呑気さが、こんな場面で仇になる。 わたしは手のひらの中の、白い小さな真珠のような物体を見つめる。 遠くへ投げ飛ばしてやりたい衝動にかられるが、そんなことをしたら、また一から作り直しだし、お金も時間もかかるし、いろいろ面倒臭い。 それよりも今は、どうしたら彼にバレないでこの状況を切り抜けられるか、それを考えるのが先決だ。
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