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もう一度、腕に巻かれたフォリフォリを確認する。
やばい、もう約束の時間だ。
もういつ彼が現れてもおかしくない。
目の前を浮游するような人の波の合間から、もうすぐ彼が飛び出してくる。
どうしよう、どうしたらいいだろう。
額の水滴を手の甲で押さえたあと、クラクラくる熱気を鼻で吸い込みながら、鏡代わり以外にまったく役に立たないスマホを、ハンドバッグの中に憎らしげに押し込む。
もう片方の手に握られたミルク色の塊を、処遇に困り果てながら、とりあえずとガウチョパンツのポケットに差し入れる。
と。
そこで指の先が救世主に触れた。
先週のどが痛かった時に使って、すぐに治ったもんだからはずしてポケットの中に突っ込んで、そのまま忘れ去っていたマスク。
それが、満を持して持ち主のピンチに再登場したのだった。
わたしは、許されるものならば、今この瞬間この場で大きく咆哮したい気持ちになった。
使いかけといえど、1週間近くそこに入れっぱなしだったため、2度ほどガウチョもろとも洗濯したので、さして問題はないだろう。
これを装着して風邪を引いたふりでもすれば、この窮地を乗り越えられるじゃないか!
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