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その時、わたしを呼ぶ声が耳に届いた。
一発逆転、さらに待ち人のお目見えで気分が一気に上がったわたしは、手にマスクをきゅっと握りしめ、これ以上はないくらいの満面の笑みを、声の主のほうに向けた。
しまった、と思った時点ではすでに手遅れ。
そこにいた彼の目が点になり、かかげた手が宙で止まり、近づきかけた足が一歩後退するのが、まるでスローモーションのようにこの目に映る。
わたしの半月のように盛大にひらいた口元の一角に、ピューピューとすきま風が吹いた。
そろそろとおもむろにマスクをかぶせてみるけれど、もう今さら何もかも遅すぎる。
「……どうしたんだい?それ」
指をさしてくる彼の表情は、戸惑っているようにも、おののいているようにも、見て取れた。
「……ちょ、チョコを」
正直に白状する以外にできることはない。
「……れ、冷凍庫から出したばかりで」
素直に打ち明ける唇が小刻みに震える。
とうに熱せられた耳たぶまでもが、火を吹くように赤くなる。
やばい、泣きそうだ。
すると彼は、Yシャツの胸ポケットからブルーのソフトケースに入ったスマホを取り出した。
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