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みのりと章は並んで歩いていた。
その間には人1人分よりは狭く、しかしくっついてはいない。
会話らしい会話はそんなにないのだが、みのりも章も2人の空気感が好きだと思っていた。
「……俺今日バイトだ」
章がぽつりと言った。
「それなら、西駅で降りるの?」
西駅とは途中の一番大きな駅で、誠が通う西高の最寄り駅。
みのりが誠と待ち合わせする時も大抵ここで降り、駅周辺のショップが入るビルなどに立ち寄ったりする。
「ん。週3回」
「そっかぁ。私もバイトやりたいって言ったけど……」
「それは、ダメ」
「え?」
「きけん」
「危険って……そんな凄いことはしないつもりなんだけどなぁ」
みのりは苦笑しながら、誠の顔を思い出した。
「みんなダメって言うんだもん」
「俺も言う」
「ふふっ、残念」
章はみのりが言った“みんな”という言葉に誠の顔を思い出した。
思い切って聞けばいい。
だが、最初に一緒に帰った時、西駅で誠と待ち合わせしていた姿を見て以来、一緒に居る所は見ていない。
急に誠の事を聞くことは躊躇われ、章はやはり口をつぐんだ。
駅に着き、改札を抜ける。
ホームに立てば程なくして入ってきた電車がゆっくり止まった。
ドアが開くと章はみのりの背をそっと押して促す。
二人並んで座席に座ると章が、ふぁ、と欠伸をした。
日差しが入って温かい車内。
みのりが章を見上げると、章はうん?と首をかしげ、涙目になった目をぱちぱちとさせる。
「ふふっ、可愛い」
思わず口にしてしまったみのりに、章はキョトンと首をかしげ、
「可愛いはみのりでしょ」
呟くように言った。
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