6 言いたくない

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「セイ。また百面相してないでさ。ドリンク、何頼む?」 斉藤が差しだすメニューを覗きこみ、ウーロン茶を指差した。 「お前、そんな味気ないもの飲むなよー」 「ウーロン茶は味あるだろ」 「もっと俺みたいにメロンソーダとか頼めってー」 言いながら斉藤はドリンクのメニューを済ませると、高橋の次に曲を入れた。 流れてきた高橋が入れた曲はバラードで、 「一曲目からそれかよ!」 思い切りつっこんだ誠に、高橋がお腹をかかえて笑い転げた。 それでも歌い始めれば高橋は上手く、流石しょっちゅう来てるだけあると思う。 続いて歌った斉藤もまた上手だったため、誠はこいつら歌手になればいいのにとすら思い、なんとなく頬を膨らませた。 斉藤が熱唱する中、部屋のドアが開いた。 店員がドリンクを運んで来たのだが、その人物に誠は目を見開いた。 コイツっ、 誠がじっと見る横で、高橋が「おぅ、」と手を挙げた。 ちらりと視線を上げた店員が盆を持ち上げるタイミングで軽く手を上げる。 そして誠と目が合うと、無表情だったその顔が僅かに驚いたように変わった。 谷口っていうヤツ!! 誠はさっさと出て行った後ろ姿を見つめるように、閉じられた扉をじっと見つめた。 アイツここでバイトしてんのか。 よし、みのりに教えてあげよう……って、それはナシ! 頭の中でそんなことを考えながら、誠はじっと一点を見つめたまま考え事をしていた。 途中、入れた曲は一通り歌い、それ以外は何かを考える誠に、高橋と斉藤は首をかしげたがそれを問うことはしなかった。
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