6 言いたくない

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章はさっき飲みものを運んだ部屋に居た男の顔を思い浮かべていた。 アイツはみのりの…… アイツはみのりの何なんだ? 「谷口くん、301に飲み物お願いー」 「……はい、」 元気の良い店長に返事をし、伝票を見ながら注文を受けた飲みものを準備した。 盆にのせて部屋へと運ぶ。 奥まった部屋へ運び、出てきた所で別な部屋の前の壁に寄り掛かる男に気がついた。 「……お前、谷口だろ?」 制服のズボンのポケットに両手を入れて、足をクロスさせて寄り掛かる。 きらりとシルバーの小さなフープピアスが光った。 「お前だろ?毎朝みのりと通学してるっての。確か教室でもみのりの後ろに座ってるんだよな?」 むっとしたように唇を尖らせて、ジロリと章を見上げたのは、誠だ。 「お前さ……みのりのこと、どう思ってんの?」 誠は壁から体を離すと、章と向かい合うように立ち見上げた。 「……なんでアンタに言わなきゃいけないんだ?」 章は誠の目をじっと見据えてそう言った。 「なんでって、みのりの事が大事だから」 誠の言葉に章はわかりやすく眉を寄せた。 「大事?……アンタみのりとどういう関係なんだよ」 真剣な瞳が誠の目を射抜くように見つめる。 誠はそれを睨みかえすようにして、頬を膨らませた。 「言いたくないっ!」 「……は?」 「みのりにも、他の奴には言うなって言ってきたんだ」 「……?」 「ずっと一緒だったのに、急に高校別にするとか、俺すげーさびしくて、でも、みのりとデートできるから良いかって思ってた所にお前が現れるし!」 「……?」 徐々に涙目になる誠に、章は傾げた首をもっと傾げた。
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