6 言いたくない

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「お、おい!気安く触るな!」 「こう見ると結構似てる」 「そんなに似てねぇよ!バカ!こら!近すぎる!!」 章の手を振り払うようにする誠に、章は笑って手を引っ込めた。 近くの部屋の扉がガチャリと開いた。 「おーい、セイちゃん……って、ショウもいる」 「セイー?……え、まさかセイちゃん、マジで南高キラー?」 「は、はぁ!?ちげーよ!!コイツは俺の妹と、」 「えっ!?セイちゃん、妹居たの!?」 「それは初耳だぞー!」 騒ぐ高橋と斉藤に、誠はとうとう双子の存在を明かす羽目になり、章はすっかりバイト中だと言うことも忘れ、膨れた顔で説明する誠を見て、フッと笑った。 「“お兄さん”」 「こら!谷口!俺は誠だ、誠!」 「じゃあ、誠。……みのりの事は、安心して」 「やだっ!安心なんかするか!手ぇ出したら俺が黙っちゃいないからな!!」 「くくっ、はいはい」 「おい!マジで言ってんだからな!?」 章はひらりと手を振って、漸く思い出したバイトへと戻る。 「……え、谷口くん、なんかあった?」 「いえ?」 驚いて章の顔を凝視する店長に、章はいたって真剣な顔を作ったつもりだったのだが、結局それは本人がそのつもりだったというだけで、この日のバイトの残り時間はほんの少し笑ったままだった。 バイトが終わり、ビルを出る。 目の前の電柱に寄りかかっていた誠の姿に気がついた。 「谷口。……みのりを泣かせたら、ただじゃおかねぇからな!」 「お兄ちゃん公認?」 「は、はぁ!?別に、公に認めてなんていねーよ!」 じゃーな! 投げ捨てるようにそう言って走って行く後ろ姿に章は苦笑を洩らす。 駅のホームに上がった所で結局誠と鉢合わせ、一緒に電車に乗る事となった。
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