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スイちゃんは。
周りの状況に敏感ながらも、細やかな駆け引きより気合いと熱意で圧し切るのが得意なラガーマン、須井健太郎は。
こんなにも弱々しい本性をずっと隠し続けていたのだろうか。
目の前で泣きそうに顔を歪めて、恋人としての関係を懇願しているこの人が、私の好きな人なのだろうか。
いろんな意味で信じられない気持ちがありながらも、その弱りきった姿に胸が締め付けられ、私は思わず彼に両手を伸ばしていた。
そのまま、彼を抱き止める。
崩れるように倒れかかってきた彼の顔が、私の左肩に乗った。
そのままの姿勢で、彼はなお、続ける。
「アキ。俺のになって」
耳元での彼の呟きは、破壊的な効果だった。
今まで抑えてていた想いが、堰を切って突如溢れ出す。
気持ちが昂り過ぎて言葉にならず、応えないまま彼を抱き締める腕にギュッと力を込めた。
そう、だ。
私は、ずっとこうしたかった。
隣を歩くだけでなく。親しく話すだけでなく。
彼にずっと触れていたかった。
私の方こそ、彼に対して切望していた。
私のものになって、と。
そして。
私は、気がついた。
彼をここまで弱くさせたのは、私自身だ。
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