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彼にとって容易には打ち明けられない秘密を握った私は。
彼の唯一の理解者であり、無二の拠り所であると、少しずつ着実に、彼に刷り込んでいったのだ。
彼の人生にとって私は代替できぬ重要な存在だと、私が、惑わしていったのだ。
そして彼は素直にそれを受け入れて。
安寧を得る代償として、私を手放せないというリスクを背負うことになった。
それだけなのだ。
思い返しても、私にすり寄ってきた彼の何処に、私への恋愛感情を読み取れるだろうか。
私を欲するその根元に、恋が見えない。
どちらかと言えば、小さな子どもが母親にすがる姿に近い。
勿論彼は、自分の思いが恋だと疑っていない。だからこその彼氏立候補だ。
でも、もし今後、彼が本当の恋を知ってしまったら、私たちの関係は簡単に崩壊してしまうだろう。
同性愛者が恋愛するのは、この日常では困難に思えた。
まして一本気な彼のこと。恋人以外の人物を恋愛対象として見ることは、意識的に避けるに違いない。
勘違いさせたまま、恋愛ごっこで幸せに一生を送れる可能性だって、決して低くないように思える。
ただ。
きっかけ一つで一瞬にして壊れる関係であり、その一瞬はいつでも訪れる、ということに変わりはない。
私は、その一瞬に一生怯えながら、その一瞬の可能性を蹴散らすために嘘や誤魔化しを重ねていくに違いない。
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