手と誓い

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「……待たせたな」 俺が目に入ると、薫は口を開けて固まった。無理もない、お互いにもう二度と会えないと思った人が目の前に現れたのだから。 「こっ、こないでっ!」 だがすぐに理性を取り戻したのか、薫は口に手を当てて俺の進行を拒否した。 これも、俺にALNを感染させたくない一心だろうか。だが、あいにくとその気遣いを受け取れるほど俺は人間ができてはいなかった。 「……っ」 自身は病魔に蝕まれた存在。きっと薫はそう思っているのだろう。 ーだから、俺は優しく薫を抱きしめた。 「大丈夫だ、独りにしないから」 「……うん」 薫の双眸から涙が溢れ出す。それを見ていると、俺も目の奥が熱くなり、しまいには決壊した。 「でも……なん…で……」 なんで私なんかのために、ここまでしてくれるの? 途切れた部分は、俺の頭の中で取り繕われ、形を成した。 それに対する答えなら、一つ持っている。 「永遠に愛し合うって誓ったじゃねぇか。それこそ、どんなときも…な。今回だって例外じゃない」 あのとき誓った言葉は、形だけのものじゃない。それが今ここで証明できた気がした。 今更になって、誓いという意味を理解した。誓いは決して軽い言葉ではなく、人と人を結びつける決して切れない糸だ。 「でも私……死んじゃうんだよ……!?」 嗚咽が絶え間なく病室に響く。命の灯火が消えようとするとき、人はどうしようもなく恐怖を抱いてしまう。 死にたくないは本能だ。そこにいくら言葉を重ねたところで納得はしてくれないだろう。 そんな薫に、俺はただ手を握った。 「温かい。……生きてる証拠だよ。薫はまだ…生きてる」 「生きて……る」 目の前にあった漠然な死のせいで、今ある生は宙に舞った。それを一つ一つ、かき集めるように、確かめるようにして薫はつぶやいた。 「……薫のあったかさにもっと触れたい」 「うん……いいよ」 俺はゆっくりと、誘われるがままに薫の隣へ横たわる。 「あぁ、懐かしいな。よくこうして二人で寝たな」 「……すごく、安心するんだ。隣にいると」 「……俺もな」 薫の体温は、どこか足りないピースを補うように俺が必要とするものだった。 「おやすみ」 「あぁ、おやすみ」 その言葉を最後に、俺の意識は薫の中へ溶け込んだ。 「愛してるよ」
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