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見たくもない顔もあちらこちらにあった。
「なんであいつがいるんだよ」
「ひきこもりの負け犬も、親友が死んだとなったらねぐらから出てくんのかよ」
奴らのあからさまな囁きも、あいつへの憤りに比べたら屁でもない。前はあれだけ気になったそれを、いともたやすくシャットアウト出来た。
しかしその声が耳に入ったのか、憔悴した様子で、声も立てずに涙を流していたあいつの母親が不意に立ち上がり、よろけながらまろぶように駆け寄って来るとぐっと俺の腕を掴んだ。
ふっくらとした指が、痛いくらいにきつく強く、腕に食い込む。
「ねぇ、あなたなら知ってるんでしょ? あの子がどうして死んだのか……ねぇ、教えて! 教えてちょうだいよぉっ!」
顔を合わせたこともなかったあいつの母親。それでも、涙でぐしゃぐしゃになったその顔は、あいつにそっくりだった。
「あの子、ずっとあなたを気にしてたわ。あなたの所にばかり通ってたじゃない……ねぇ、あなたなら知ってるんでしょっ?」
すがるその手を振り払うことも出来ず、俺は唇を噛み締める。
まるであいつに責められているようで、心臓がぎゅっと締め付けられ、きりきり痛む。掠れる声をどうにか絞り出した。
「すみま、せん。俺、知らないんです。あいつ、何も言わなくて……そんなそぶり、全然見せなかったから……」
そうだ。あんなに長い時間、一緒にいたのに。親友だと思っていたのに。
俺はあいつの本当の悩みひとつ、知らなかった。
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